言葉は魔法、言葉は凶器
言葉ひとつで、人は救われる
―寿司職人・森敏也の想い―
寿司の世界で大切なのは、
魚や技術だけではありません。
お客様にどう接するか、
弟子にどう声をかけるか――
その「言葉」ひとつで、
相手の心は大きく変わると私は感じています。
例えば、
仕込みの現場で「普通はこうだ」と
言ってしまえば、若い職人の挑戦心を
奪ってしまうかもしれない。
「頑張れよ」と軽く言うよりも、
「一緒にやってみようか」と
声をかけた方が、きっと本人は救われる。
寿司屋の仕事は孤独に見えても、実
は人と人との関わりの積み重ねなんです。
⸻
「私の頃はこうだった」ではなく
→ 「今のやり方には、今の良さがあるね」
寿司の世界は“伝統”と“今”のせめぎ合い。
私が若い頃の方法を押し付けるより、
今の感覚を尊重したい。
そうして受け継がれたものが、
新しい寿司を生むのだと思います。
⸻
「普通はこうする」ではなく
→ 「この魚には、どう活かすのが一番いいと思う?」
寿司に“普通”はありません。
魚の状態も、季節も、お客様もすべて違う。
だからこそ「相手の意見を聞く」姿勢が、
最高の一貫を生むのです。
⸻
「頑張って」ではなく
→ 「一緒に握ろう」
修行は厳しい世界です。
でも、ただ「頑張れ」と突き放すのは簡単。
弟子が不安そうなときは、
自分も横に立って一緒に包丁を握る。
背中を見せるよりも、隣に立つことで
伝わるものがあると信じています。
⸻
「まあ別にいいけど」ではなく
→ 「こういう工夫もあるよ、どう思う?」
寿司の仕込みでも、お客様との会話でも、
曖昧に流すのではなく、
建設的に伝えることが大切。
否定せず、押し付けず、
ただ意見を共有する。
そうして信頼が育っていきます。
⸻
思いやりの積み重ねが、寿司になる
寿司職人にとって「余計な一言」は
刃物のようなもの。
たったひと振りで魚を
台無しにしてしまうように、
言葉ひとつで人の心も傷つけてしまう。
逆に、
思いやりのある言葉は旨い出汁のように、
じんわりと心に染みていきます。
寿司は技術で握るものではなく、
人の心で握るもの。
だからこそ私は、
日々の言葉選びを大切にしていきたい。
今日も一貫の寿司に想いを込めるように、
ひとつひとつの言葉に思いやりを込めて。
それが、
寿司職人・森敏也として生きる私の流儀です。